デヴィッド・ボウイ 『ブラック・スター』  追記あり

2016年1月8日。
自身の69歳の誕生日となる日、デヴィッド・ボウイのニュー・アルバム『ブラック・スター』が発売された。
2013年に長らくの沈黙を破って発売された、10年ぶりとなるオリジナル作『ザ・ネクスト・デイ』が素晴らしく良かった。
それから3年に満たない時期を経て、発売された最新作『ブラック・スター』。
これが、これが良いのだ。
それもたまらなく。
前作『ザ・ネクスト・デイ』とはコンセプトが異なるこの新作には、正直言って、キャッチーなキラーチューンと呼べるようなものは1曲もない。
しかし、新世代のジャズ・ミュージシャンを起用して作られた、全7曲は、アルバムとして通して聴いたときの破壊力は強烈だ。
このところすっかり忘れされかけていた、アルバム単位で音楽を聴くことの快感を思い出させてくれるのだ。
そういう意味で、この最新作は前作と大きく違う。
そして、どちらもたまらなく素晴らしいアルバムである。


アルバム・タイトル曲で始まるオープニング。
不穏な雰囲気を漂わせる曲である。
ミュージック・ビデオもあまり心地よいものではない。
しかし途中で趣を変える構成の10分近いこの曲は、アルバムを象徴する曲としてとても重要であり、えも言われぬ魅力を持つ。




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David Bowie

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4曲目の「スー(オア・イン・ア・シーズン・オブ・クライム)」は、2014年にシングルとして発売され、同年発売のオールタイム・ベスト盤である『ナッシング・ハズ・チェンジド』にも収録されていた曲だが、今作に収録されているのはニュー・バージョン。




アルバムラストの「アイ・キャント・ギヴ・エヴリシング・アウェイ」は、ポップで心地よい浮遊感を漂わせる、今作で唯一ポップな香りを持つ曲である。
冒頭から続く緊張感を緩和させるようなこの曲が最後に聴こえてきて、どこか僕は解放された気分を感じる。
“全てを与えることはできない”と歌われているのだが、なぜかポジティブに受け止めてしまうのだ、この曲は。




最初にこのアルバムを聴いたとき、良いんだけど、ダークで混沌としていて、なんかつかみどころのないしっくりいかない感じが心に残った。
この心に残った感じが気になって繰り返し聴いた。
ダークで混沌とした感じは残っているが、最初に聴いたときよりははるかに霧が晴れ、すっと心に入って来るようになった。
心地良ささえ感じる。
しっくりこない感じはアルバムラストの「アイ・キャント・ギヴ・エヴリシング・アウェイ」にたどり着いた時ほぼ解消されるようになった。
ただ完全に解消されたわけではない。
この感じは、これから先何度このアルバムを聴いても、解消しきれないような気がしている。
だが、これもアルバム『ブラック・スター』の魅力なんじゃないかとも思っている。

最高の一枚!


それにしても、69歳になった人の新作がこれほどまでに素晴らしく刺激的であるなんて、凄すぎる。
音楽を語るのに、アーティストの年齢を持ち出しすのは、あまり好きではないし、そんなことは音楽の本質とは関係のないものだと思っている。
放たれた音楽そのものが重要であり、それ以外のことは音楽とは別のものとして語られるべきだと。
しかしつい思ってしまう、

70歳目前でこんなクリエイティヴな作品が!?

、と。

そしてそれは、もうこんな歳になってしまったよ....、なんてたまに嘆いてしまう自分に大きな勇気とやる気を与えてくれる。

デヴィッド・ボウイ新作 『ブラック・スター』 とても素晴らしいアルバムです!!





[追記]

この記事のアップ後しばらくしてから、デヴィッド・ボウイ死去のニュースが飛び込んできた。

January 10 2016 - David Bowie died peacefully today surrounded by his family after a courageous 18 month battle with cancer. While many of you will share in this loss, we ask that you respect the family’s privacy during their time of grief.
                ― 公式フェイスブック・ページより

18か月間がんと戦い続けてきたとのこと。
そんな中、こんなにも凄いアルバムを作り上げていた。
感服してしまう。
前作、そして今作と素晴らしいアルバムを連発していたので、以前ツアーはもう行わないというようなニュースを見ていたが、また来日公演なんてやってくれないかなぁ、なんて考えていた。
だけど、それはもう絶対に叶わぬものとなってしまった。
この3日間、繰り返しニューアルバムを聴いてきた矢先の訃報、とてもとてもショックです。
こういうことになってから聴くと、アルバム・ラストの「アイ・キャント・ギヴ・エヴリシング・アウェイ」に泣けてきます。

この記事へのコメント

ジャム
2016年01月11日 16:40
一報を聴いた時は一瞬、意味が解らなかったです。
まさかまさか!遺作になってしまうとは・・・

ご冥福をお祈りします。
2016年01月11日 17:40
ジャムさん

ショックです、本当に。。
仮面ライダー
2016年01月11日 23:52
ショックが時間がたつに連れてこみ上げてきた。
しばらくデヴィッドボウイを聴いてこなかった自分にとって。。
★ブラックスターは、敢えて先行してネットであがってくる音源を聴かずにオール新曲として今夜聴くつもりだった。。

まさか、こんなことになってから…
彼の遺作とわかって聴くことになるとは。。

僕はイエモンを聴いて吉井和哉の勧めでボウイと出会った35歳である。
高校生のとき出会ったボウイは衝撃だった。当時から20年以上も前に作られたグラム三部作にきらびやかで儚い切ないメロディ世界観に夢中になった。

70歳前に作られたこの 遺作
遺作とわかって初めて聴く世界。
死がリアルに近づいているのをわかっていて作り上げた作品。

本当に悲しい。
そして僕らに残した記憶に残る音楽をありがとう。これからも大好きです、
2016年01月12日 00:25
仮面ライダーさん

僕が最初に聴いたデヴィッド・ボウイは多分「アッシェズ・トゥ・アッシェズ」だと思います。
不思議だけどポップな感じに惹かれました。
それからしばらくして『レッツ・ダンス』が大ヒットし、過去の作品に遡り、他のアーティストとは違う(特にアルバム毎にまるで違うアーティストであるかのような作品を出すところ)魅力と数々の素晴らしい作品に驚かされました。
ショックです。
その時僕も高校生でした。

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